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Vol.14 2023/6/10

 たいへん長らくお待たせいたしました。
 藍峯舎にとって10冊目の刊行物となる中相作編「江戸川乱歩年譜集成」を、ようやくお届けできる運びとなりました。
2020年春に「猫町」特装版を刊行して以来、小社からの新刊は3年にもわたりブランクとなって、読者の皆様にもすっかりご無沙汰が続いてしまいましたが、この間は藍峯舎通信での途中経過のご報告もままならず、あらためて失礼の段をお詫び申し上げます。

 さて、ここまで間が空いてしまったのは、もちろんコロナ禍という未曽有の事態により、出版活動にもさまざまな不自由が生じ、時間を空費せざるを得なかったのも一因ですが、それにも増して今回は、新たに取り組んだプロジェクトが、「江戸川乱歩年譜集成」という非常な難物だったことが大きな要因と言えるでしょう。
 中相作氏による江戸川乱歩リファレンスブックシリーズの完結編となる「年譜集成」の版元を、それまでの名張市立図書館から引き継いだ藍峯舎としては、もちろん相応の覚悟を持ってこの大企画に立ち向かったわけですが、それにしても前例のないユニークな三部構成による600頁を超す「大著」の刊行にこぎつけるまでの道のりの険しさは、想像を超えるものでした。

 当社のホームページで初めて「江戸川乱歩年譜集成」の刊行予告を公開したのは、2021年12月のこと。その時点で、三部構成のなかでも最大のボリュームを占める第三部のフラグメント及び第一部の「伝」についてはすでに入稿済みでゲラの段階まで進行しており、残る原稿は年譜と索引だけなら、おそらく2022年夏ごろには刊行できるだろうという見通しをつけての予告公開でした。
 ところがそれは版元の勝手な皮算用に過ぎず、年が明けて春に入っても原稿の完成は成らず、さらに夏が過ぎ、ようやく索引も含めて原稿がすべて入稿しても、今度は嵐のようなゲラの修正が……。初校も再校も修正の赤字だらけで、三校で責了となるはずが、なお赤字は尽きず、四校にまで至る延長戦に突入して、結局、当初の甘い見通しから丸々1年遅れての刊行となってしまいました。

 というわけで、版元は藍峯舎に代わりましたが、本の成り立ちについては、これまでのリファレンスシリーズの3巻と全く変わっておりません。全体の構成から原稿執筆、さらには緻密な紙面設計まで膨大な作業のすべてを中氏がひとりで担当しています。中氏には藍峯舎から2016年に刊行された乱歩の「奇譚」において、翻刻と校訂を担当していただいており、その厳密無比の仕事ぶりについては承知しておりましたが、600頁を超す編集作業を一手に担って完璧にこなしてゆくその超人的な力業を今回あらためて目の当たりにして、ろくな助力もできなかった版元はただ圧倒されるばかりでした。
 その仕上がりについてはここであらためて贅言を要するまでもありませんが、例えば人名、書名、作品名などの索引を集めた33ページにも及ぶ巻末の「データ集」ひとつを取り上げてみても、その詳細を極めた徹底的な作り込みの凄さには、ここまでやるのかと、辛口の乱歩マニアもさすがに目をむくのではないでしょうか。

 中氏は昨年10月21日の乱歩の誕生日をもって、長年にわたり個人で続けられてきた乱歩関連資料の収集と体系化の作業に終止符を打つ「乱歩じまい」を宣言されました。中氏いわくその総決算の「最終公演」となる「江戸川乱歩年譜集成」は、乱歩の作家デビューからちょうど100年という記念すべき年に、これまでのシリーズと同様に戸田勝久氏の瀟洒な装幀造本により、晴れて世に送り出されます。造本の都合などにより部数が限られてしまうのが版元としては心苦しい次第ですが、中氏の畢生の乱歩研究の目覚ましいフィナーレを、どうぞこの藍峯舎版でご確認ください。

 予定より大幅に遅れてしまいましたが、「江戸川乱歩年譜集成」は、当ホームページにて6月20日(火)より予約を開始いたします。恐縮ながらもう少々、お待ちいただければ幸いです。

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