藍峯舎

藍峯舎通信 web version

藍峯舎通信 web version

vol.11 2018/1/10

 大変お待たせしておりますが、「完本 陰獣」は2月刊行を目指して現在、造本作業が進行中です。藍峯舎の刊行物の造本は手作業による部分が多く、いつもながら時間を要する工程なのですが、実は今回はそれ以前の工程においてもこれまでにない時間とエネルギーを費やすことになってしまいました。

 すでにご案内の通り藍峯舎版「完本 陰獣」は、亂步のテキストに、竹中英太郎による「新青年」連載時の挿絵のみならず、その7年後に平凡社の「挿画名作全集」のため新たに描き下ろした挿絵や伝説の「大江春泥作品画譜」に至るまで、「陰獣」にまつわるすべての挿画を初めてカップリングしたものです。亂步と英太郎の至上のコラボレーションを集大成した文字通りの「完本」というわけなのですが、この英太郎の挿絵の印刷による再現が並大抵のことではありませんでした。

 というのも以前に藍峯舎から刊行した横溝正史の「鬼火」の場合は、英太郎の挿絵全点の原画が奇蹟的に現存しておりましたが、「陰獣」については残念ながら原画は1枚も存在が確認できず、すべての挿画を80年以上も前の印刷物から復元するしか方策がなかったからです。現在の印刷技術で英太郎のこれらの挿画をどの程度のレベルまで再現できるものか、そこが出版の成否のポイントであるだけに、デザイナーや印刷会社との間で様々な角度から検討が重ねられ、準備を尽くしたうえで編集作業がスタートしたのですが、当然ながらそう簡単には事が運びません。

 ある程度は予想していたことながら、いちばんの大仕事になったのがスキャニングした挿画のデータの修整作業。藍峯舎が今回新たにスキャニングしたものだけでなく、甲府の「竹中英太郎記念館」から同館作成のデータもお借りして、両者を見比べながら40点を超す挿画すべてについて1点ずつ濃淡やディテールの微妙な補正を施してゆくという手のかかる作業に、大変な時間と労力を割かれてしまいました。さらに印刷方法と用紙の選択がまた一苦労。テストを重ねた末に、「名作挿画全集」に収録された挿絵と「大江春泥作品画譜」についてはダブルトーンの高精細印刷(FMスクリーン印刷)を採用し、用紙も本文とは別のものを使用することでようやく最上の結果を得ることが出来ました。そんな苦闘を経て、英太郎の挿画を最新の技術で果たしてどこまで生々しく甦らせることができたか、その仕上がりについては、どうか読者の皆様の目でご確認いただければ幸いです。

 というわけで話は飛びますが、奇しくも今年は竹中英太郎の没後30年に当たり(1988年に81歳で逝去)、これを記念して4月には甲府で多彩なゲストを集めて、英太郎と子息の竹中労の「父子を偲ぶ」トークイベントも開催されます(詳細は竹中英太郎記念館のサイトにて)。「妖美と怪奇幻想の画家」英太郎の画業にあらためて各方面からのスポットが当てられるこの記念すべき年に、「鬼火」と並ぶ代表作である「陰獣」挿画のすべてを、亂步の執筆時の息遣いまでが伝わるような「新青年」連載時のテキストとともに、藍峯舎版「完本 陰獣」でじっくりご堪能ください。

 最後にお知らせですが、「完本 陰獣」の予約開始は1月16日(火)からとさせていただきます。遅れに遅れて恐縮至極ですが、もう少々お待ちのほどを。

過去の藍峯舎通信